すれ違う男（完）
風の噂で、
星空の下、河原で決闘があった事を耳にした。
先日、偶然散歩中に「赤社」を見かけた。
果樹園の中に、ひっそりと隠れているようだった。
身体はあちこち傷だらけで、河原での決闘の激しさを物語っていた。
赤社は日中はジッと動かず、
夜になると果樹園のリンゴを穫って食べたり、
魚を釣って食べたりしているようだ。
薬草の使い方も心得ているようで、
傷口は化膿することがなかった。
もう一方の「白髭」は？
白髭のその後の姿を見た者は誰もいないが、
飲み屋街で派手に振る舞っていたとか、
外国船に乗せられて行ったとか、
噂話はいつも変化していた。
もしも、
あの時、あの場所で二人がすれ違わなかったら…
いや、それは避けられないこと。
だって二人は、
知らず知らずそれを望んで生きてきたのだから。
完
